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恋を知る鬼知らぬ人 更新

雰囲気オカルト、雰囲気BLとして書いている恋鬼の、キリの良い所までをアップしました。

インドネシアのランダは本当に怖いです。知人に起きた実話(私も片鱗を見たのですが、やはり縁起が悪いものは見てるだけで気分が悪くなりますね)を下敷きにしています。が、竹浦が理由付けを淡々としてくれるので怖さが半減している気がします。ものには理由を知ることで余計に怖くなることもありますが、大概は腑に落ちれば怖くなくなりますね。

次回からは高校時代に遡り、17歳の時の2人に何があったのかを書きたいと思います。割と行き当たりばったりなところがあるので、キャラクターをもうちょっと掘り下げて行きたいです…。

ということで、以下30分即興小説トレーニングで書いていた、2人の高校時代の一コマです。お題が「白い発言」で苦労しました。

楕円の読み解き方  

 

 

「これ、なんだと思って見てた?」

 声を掛けられ、ノートから顔をあげると真寿美が漫画の1コマを指さしていた。放課後、人がノートを写させてもらっている間随分静かにしているなと思ったら、漫画を読んでいたらしい。

「……漫画読むんだな」
「晴一お前、俺の事なんだと思ってるんだ」

 漫画くらい読む、と真寿美は機嫌を損ねたように眉根を少し寄せて言った。綺麗な顔をしているから、少し顔が歪んだだけで迫力が出る。

「でも俺のじゃあない」 
 教室の後ろにあった奴だと言う。漫画の表紙を見せて貰うと、皆が回し読みしている長編漫画だった。晴一にはまだ回ってきていない(というか、興味がなくて手に取っていなかった)。漫画の持ち主も恐らく全巻泊めているのだろうが、真寿美が手にしているのは中途半端な巻数のものだ。何人か、家に持ち帰って読んでいるのだろう。
「まあでも、読まなそうな話だよな」
 ちょっと少女漫画みたいな絵柄の漫画だ。女子が読んでいたのをおぼろげに思い出す。
「タダなら読む。そういうもんだろ――で、」

 これ。
 真寿美は再び、さっき指さしていた1コマを出して来た。

「……ふきだし」
「何も書いてなくても?」
「書いてなくても」
 晴一は頷いた。キャラクターの横に丸く楕円が描かれていて、下の方がひゅっと尖っている。
 漫画を読んだことがあるのなら、これがふきだしだと言う事位見当が付きそうなものだが。

「何だ、エクトプラズムかと思った」
「ぶっ」

 突拍子のない単語に、晴一は思わず吹きだした。

「知ってるか、エクトプラズム」
「知ってるっていうか、お前それはないだろ」

 問題のページをもう一回見る。それは随分とシリアスな場面で、どう考えたって幽体離脱だとかそういうシーンではなかった。

「ないのか」
「なんで落ち込んでんだよ。これアレだろ、こいつが何かを喋っているんだけど、こっちの男がそれを聴きとれないって表現」
「……へえ」

 聴き取れなかったのか。真寿美は意外そうに呟いた。
「そういうのって、大体後になって何を喋ったからネタバラしがあるんだよ」
「凄いな晴一、漫画表現をよく知っている」
「フツーだよ」
 普通の高校生だったら、それなりに漫画を読んで育ってきている。その偏差値からしたら展開を類推する位、簡単なことだ。

 ――でも、意外だな
 真寿美は、基本的に人の感情の機微に聡い人間だ。
 それが、こういうドラマティックな演出というか、言外のものを理解できないというのが不思議だった。

「……っつうか、エクトプラズム、ってよ」
 思い出して、じわじわ笑えてくる。
「これ、結構霊能力とかそういうのが出てくる話みたいなんだよ、だから」
「だからって、こんな真面目なシーンでお前」
「ああもう、わかったから」
 良いからノートを早く写し終われ、と真寿美が背を向けた。きっと恥ずかしいのだろう。
 
「お前、そのオカルトマニアなとこ、マジでどーにかしたほうがいいって」
「……」
 
 その背中に助言して、晴一はまた笑った。
 きっと漫画だったら、真寿美の横に白いふきだしが出てるだろう。
 何を言ってるかは、晴一には聞き取れないのだろうけれど。